日本ベンチャー学会誌No.8 要旨 論文一覧
Japan Ventures Review 日本ベンチャー学会誌No.8 要旨
September 2006
研究論文
- 山田 仁一郎 (香川大学)
「不確実性対処としての企業家チームの正統化活動」 -
本研究は、地方大学発ベンチャーの組織形成プロセスの課題をインテンシブな事例分析に基づいて検討し、次のようなことを明らかにした。地方大学発ベンチャーは、その組織形成の初期段階において、経営資源調達のための課題という外的不確実性と同様に、高度な内的不確実性に直面することを明示した。この不確実性に対処する方法として企業家チームが行っているのは、新たな事業コンセプトの確立を通した正統化活動である。
正統化活動は従来、競合や規制変化などの外的不確実性に対処する方法として着目を浴びてきたが、内的不確実性を制御し、事業活動を強く推進するためにも必要不可欠であることが見出された。研究者を中核にする企業家チームは、保有する技術シーズと獲得した事業機会、地域クラスター政策などの正統性の源泉を梃子にして新たな支援や人的資源を呼び込み、事業コンセプトを確立していく。本稿は、事業コンセプトの戦略的社会性こそが地方大学発ベンチャーを性格づけるものとして、先行研究の検討とともに、新たな理論的な分析枠組みの構築を行う。キーワード:不確実性、正統化活動、企業家チーム、大学発ベンチャー、戦略的社会性
- 鹿住 倫世 (高千穂大学)
「女性企業家の企業家活動における職業経験の影響」 -
これまで行なわれてきた先行研究の成果によると、女性企業家の経営する企業は、特定の業種に偏り、規模も小さく成長性も低いと言われている。しかし近年の日本において、自ら創業した企業を急成長させ、株式上場させるような女性企業家が輩出するようになった。彼女たちは高い学歴や管理職経験、プロジェクト管理の経験を持っている。男性と同様の職業経験によって、男性と遜色ない企業家活動ができるのではないかと考えられる。そこで本論では、女性企業家(女性創業経営者)3,000人に対してアンケート調査を行ない、創業前の職業経験、特に管理職経験やプロジェクト管理の経験が創業後の企業経営(企業規模や業績、事業拡大意欲)にどのような影響を与えるのかを分析することにした。303件の有効回答を分析した結果、管理職やプロジェクト管理の経験の有無だけでは、有意な影響はみられなかったものの、これらの経験年数が長いほど、創業した企業の資本金額や従業員数、年商、営業利益率が増大する傾向がみられた。
キーワード:女性企業家、企業家活動、職業経験、企業規模、事業拡大意欲
日本ベンチャー学会誌No.7 要旨 論文一覧
Japan Ventures Review 日本ベンチャー学会誌No.7 要旨
March 2006
研究論文
- 江島 由裕 (大阪経済大学)
「外部経営資源が中小企業経営に与える影響分析」 -
本稿では政府支援を中心とする外部経営資源と創造的な中小企業経営との関係性について実証的に分析している。分析枠組みとして資源ベース論と政府支援の合理性を取り上げて、主に外部経営資源の付与と内部経営資源、環境認識、経営戦略、経営成果との関係性について考察している。実証研究のデータは、全国の創造的中小企業へのアンケート調査結果(2002年12月に実施、有効回答数522)を基礎にしている。分析結果から明らかになった主な点は次の通りである。外部経営資源は相互に補完関係があるが、経営戦略、環境認識、経営成果との関係性は薄い。経営資源に乏しい若い中小企業も同様で外部経営資源がマネジメントに与えている影響は小さい。一方、中小企業の戦略タイプが経営成果に影響を与えていることは確認できた。政府支援は情報の非対称性を緩和している可能性があり、技術開発の進捗や信用力の強化には一定の効果を発揮したが、マネジメントへの影響は確認できていない。
キーワード:資源ベース論、政府支援の合理性、外部経営資源、創造的中小企業、経営戦略
- 新藤 晴臣 (大阪大学大学院経済学研究科)
「研究機関発ベンチャーの創造プロセス」 -
本研究は、研究機関発ベンチャーの創造プロセスを考察することを目的とし、先行研究のレビューをベースとした新藤 (2005)のフレームを、仮説として用いている。同研究では、起業家活動を、技術開発、事業開発という2段階に分類し、前者には、発明家、技術特性、知的財産が、後者には、起業家、事業コンセプトと計画、資源が含まれる。2段階の間には起業機会が存在し、背景にある法律・政策、研究機関は起業家活動全体に影響を与える。また本研究では研究方法として、単一事例研究を行っている。
発見事項のポイントとしては、第1に研究機関発ベンチャーの起業家活動では、研究・事業の2つのネットワークの存在が重要となる。第2に、2つのネットワークを結ぶメタネットワークが産学連携の基盤となっている。第3に、起業家活動を「探索の王手詰めの理論」と捉えることで、技術と事業との双方向性を理解することが可能となる。
本研究は単一事例による限界はあるが、その問題は今後、三角測量の導入により解決されると考える。キーワード:研究機関発ベンチャー、起業家活動、ネットワーク、探索の王手詰めの理論、産学連携
- 長谷川 博和 (グローバルベンチャーキャピタル㈱)
「日本ベンチャーキャピタルのIRR向上の研究」 -
ベンチャーキャピタルのパフォーマンス(IRR)を向上させるためには、どのような要因が寄与するだろうか。本稿では日米欧VCのIRRを比較した上で、1998年から 2002年に株式公開したベンチャー企業の増資とIPOの過程を検証することでIRR向上に寄与する要因について考察した。その結果、EXIT戦略を示すIPO時価増加率と追加増加回数はIRRと正の相関が認められ、IPOまでの月数、シンジゲーションを示す同時期VC数、バリュエーションを示す時価の増加率、Pre時価については逆相関が見られた。投資期間を示す創業からの月数、増資後のシェア、オーナー系、専門性とIRRは相関が示せなかった。
キーワード:日本のベンチャーキャピタル、内部収益率(IRR)、回帰モデル、系列別VC行動の違い
- 桐畑 哲也 (奈良先端科学技術大学院大学)
「新技術ベンチャー創出とベンチャーキャピタルの投資後活動」 -
本論文は、新技術に基礎を置く企業 (New Technology Based Firms:以下、新技術ベンチャーと略す)及びベンチャーキャピタル(Venture Capital Companies:以下 VCと略す)の双方に対する質問票調査をもとに、我が国の新技術ベンチャーの支援ニーズ及び VCの投資後活動について分析した上で、 VCの新技術ベンチャー投資における投資後活動について論じる。
質問票調査からは、新技術ベンチャーの支援ニーズは、企業戦略・動機付、アドバイス・ネットワーク、財務・危機、外部人的資本の導入、の4因子に分類できる。新技術ベンチャーの支援ニーズは、「企業戦略・動機付」が最も高く、以下「アドバイス・ネットワーク」「外部人的資本の導入」「財務・危機」と続いた。また、新技術ベンチャーが求める支援環境としては、優秀な人材が容易に獲得できる「労働力・人材」が最もニーズが高かった。一方、我が国 VCが実績を有する支援は、「アドバイス・ネットワーク」が最も高く、以下「財務・危機」「企業戦略・動機付」が続き、「外部人的資本の導入」は、実績を有する VCの割合が最も低かった。
我が国における新技術ベンチャー創出の観点から見た場合、「外部人的資本の導入」に関する支援環境整備は重要である。また、個々の VCにあっては、業界全体で見た場合、「外部人的資本の導入」に関する投資後活動に取り組む VCの割合が低いだけに業界内の差別化の観点からも有効であろう。キーワード:新技術ベンチャー、支援ニーズ、ベンチャーキャピタル、投資後活動、外部人的資本の導入
事例研究論文
- 増田 一之 (早稲田大学大学院アジア太平洋研究科)
「ハイテクベンチャー創業に必要なキャピタル機能」 -
アンケート調査により、シード期のハイテクベンチャーを支援する創業支援型ベンチャーキャピタルがメンター・キャピタリストとして、エンジェルの機能を代替補完することを示し、その機能を支援時期毎に分析した。分析結果は以下の通りである。
(1)チームアップ機能
ハイテクベンチャー創業支援型キャピタルはハイテクベンチャーからパートナーとしての役割を期待されている。チームアップ機能は、研究者・起業家から選ばれる機能である。この機能は、主にキャピタリストの個人的資質・性格からなる個人的価値からなり、次いで社会的価値である「人的ネットワーク」、事業的価値である「明確な投資方針」、「当社技術とビジネス両方理解」からなる。
(2)スカウト機能
優良な研究者・起業家を見抜き選ぶ機能であり、評価のポイントは「技術の質」、「ビジネスのポテンシャル」、「創業者の素質とコミットメント」である。
(3)ハッチ機能・資金提供機能
ハイテクベンチャー創業支援型キャピタルは付加価値活動によりハイテクベンチャーに寄与する。起業前・時のハッチ(孵化)機能は、主に「資本政策策定」、「技術シードを評価しビジネス構想を示す」、「事業計画作成」からなる。
(4)コーチ機能
起業後のコーチ(育成)機能は主に「資金調達支援」、「事業計画見直し」からなる。
(5)活動の現状
ベンチャーキャピタル間で質の差が存在し、特にチームアップ機能に質の差がみられる。また、ベンチャーキャピタルの現状について、主にハッチ機能及びコーチ機能に理想と現実のギャップが存在する。キーワード:スタートアップ、ベンチャー、ハイテク、ベンチャーキャピタル、創業支援
- 長谷川 克也 (早稲田大学)
「事業育成サービス業としてのベンチャーキャピタル」 -
新規産業育成においてベンチャー・キャピタルが果たす役割では、いわゆるハンズオン支援によるベンチャー企業への経営参画、経営指導が重要である。ベンチャー・キャピタルがハンズオン経営支援を行うのは、投資先に対して資金だけでなく、他の付加価値も積極的に提供して投資先の企業価値を向上させる必要があるからだとされる。これは産業としてのベンチャー・キャピタルを資金運用業と見る視点に立った議論である。本論文では視点を変え、ベンチャー・キャピタルの本質は事業育成サービス業であるとの立場からベンチャー・キャピタルの役割を考察する。特に、シリコンバレーのベンチャー・キャピタリストのプロファイルの分析を通して、ベンチャー・キャピタルの資金運用家としての役割と事業育成家としての役割の二面性を解析して、産業としてのベンチャー・キャピタル業の本質は、資金運用業よりも事業育成サービス業であることを明らかにし、日本におけるベンチャー・キャピタルの社会的位置付けについても考察する。
キーワード:ベンチャー・キャピタル産業、ベンチャー・キャピタリスト、シリコンバレー、資金運用、事業支援