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日本ベンチャー学会誌No.5 要旨 論文一覧

Japan Ventures Review 日本ベンチャー学会誌No.5 要旨
November 2004

論文

長田 直俊((財)日本規格協会)/渡辺 千仭 (東京工業大学)
創業・新興企業の活動と経済成長・産業構造変化の相関

 創業や新興企業の活動が経済成長に与える影響が、世界的に注目されている。新興企業、とりわけベンチャー企業の振興は、地域レベルのみならず、国家レベルでも、重要な政策課題となっている。
 本研究では、創業・新興企業の活動、産業構造の変化、経済成長の3者の関係に着目し、わが国において1970年代より90年代にいたるまで、この3者の間に、それぞれ 4-6年のタイムラグを伴って、密接な相関関係が存在してきたことを全国ベースで分析している。しかしながら、 1990年代に入ってからは、3者はいわば負の悪循環を生じており、わが国経済の低迷の原因がここに存在すると考えられる。
 本論文ではさらに、個別の企業及び産業のライフサイクルが、その成長と減退を通じて、産業構造の変化に影響を与える様をも分析し、その結果、個別の企業及び産業ごとの変化が総体として、経済成長につながることを示唆した。
 以上の関係を前提にすれば、今後のわが国がさらに持続的な経済成長を遂げるためには、創業や新興企業の活動、それにベンチャー企業の存在が非常に重要な役割を果たすことが明らかであり、創業・ベンチャー企業支援策の重要性が強く認識される。

キーワード:創業、開業率、新興企業、ベンチャー、産業構造、経済成長

李 宏舟(日本学術振興会)/Lau Sim Yee(麗澤大学)
クラスター誕生の初期条件に関する一考察

 利用されていない技術、市場チャンス、そして能力が完全に発揮していない人材がクラスター誕生の初期条件である可能性が高い。現在のシリコンバレーの成功を支える「第二の経済」は、市場メカニズムの下では、クラスター誕生の初期条件になりえない。政府は政策企画でクラスターの誕生に影響を与えようとした場合、起業機会となる技術に起業家がアクセスできるような規制緩和を行い、能力を十分に発揮していない人材を流動化させて、彼らを起業家に転換させるプッシュあるいはプル条件を作る政策が必要であろう。それに、上述したサプライヤーサイドに重心を置いた政策に加えて、企業製品に市場を提供・拡大する方策も考えなければならない。

キーワード:クラスター、初期条件、支援産業、中関村

小出 浩平(戸田建設㈱)/東出 浩教(早稲田大学大学院)
地域企業の経営者と地域活性化

 本研究の目的は、地域を活性化させるために地域企業の経営者が果たす役割を探索することにある。本研究は東京都福生市において実証研究を行った。まずインタビューなどの質的データから、地域企業の経営者の分類 (4象限)可能性などの命題を導き出した。例えば、前向きに会社の業績を伸ばし、かつ地域コミュニティに協力的な態度を示すグループ、あるいは経済的には地域に貢献するが、コミュニティ活動には参加しないグループなどである。その命題を検証するために、経営者に対して質問票調査を実施した結果、分類された経営者の各グループは様々な特徴を有することが分かった。さらに本研究では、それぞれの経営者グループを地域に惹きつける要因を導き出している。例えば、地域のインフラや生活の質などの要因である。このように経営者を分類して各グループの特徴を浮き彫りにすることは、地域のポリシーメーカーに対して、地域コミュニティに貢献する経営者グループごとに着目する必要があることを示唆するものである。

キーワード:地域活性化、地域企業、コミュニティリーダー型経営者、探索的アプローチ

中村 洋(慶應義塾大学大学院)/浅川 和宏(慶應義塾大学大学院)
日本のバイオベンチャー企業による外部環境劣位克服に関する考察

 外部環境の魅力度が相対的に低い業界において、その業界が高い潜在的成長性を有する場合、そして同じ業界で他国に優れた環境が存在するもののそこへの経営資源の移転が困難な場合、2つの「SCPロジックのジレンマ」(「現状の外部環境劣位性と高い潜在的成長性によるSCPロジックのジレンマ」と「外部環境劣位性と経営資源の他国への移転困難性によるSCPロジックのジレンマ」)が存在する。高い潜在的成長性を有するものの経営資源の乏しいベンチャー企業は、当該国の外部環境劣位性を克服することが必要である。本研究では日本のバイオ産業を取り上げ、その劣位性を日本のバイオベンチャー企業がどのように克服できるかを、事例分析を基に考察する。経営戦略論上の示唆として、これまで関連性がほとんど指摘されなかった複数の既存経営理論が、日本のバイオベンチャー企業の競争力強化の戦略分析において密接に関連していることを示す。

キーワード:バイオベンチャー、SCPロジック、外部環境、Centers of Excellence、Resource-based View

吉野 忠男 (北海道大学大学院経済学研究科)
ベンチャー企業の再生

 本研究の目的は、企業再生の考察を通じて、ベンチャー企業を対象とした再生メカニズムを明らかにすることである。現在、企業再生は肥大化した経営資源の削減、とりわけ財務内容の改善が議論の中心であり、その多くは大手企業に偏在し、脆弱な経営資源しか有しないベンチャー企業は埒外な存在となっている。ベンチャー企業の再生議論は、具体的にされているとは言えず、再生を必要とするベンチャー企業が無策に破綻する中で、本研究は極めて高い意義を有するものである。
 われわれはベンチャー企業の再生を従来型の企業再生とは異なり、「創業、スタートアップ期」から「成長期」段階における新たな戦略パターンの転換に注目する。それは単なる戦略の転換ではなく、創業時の事業コンセプトと組織の構成要素からなる戦略パターンを基に、漸進的変革(連続変革)および不連続変革を通じ、新たな戦略パターンに転換するメカニズムとして企業再生を位置づけ、その解明を試みている。

キーワード:企業再生、事業コンセプト、漸進的変革(連続変革)、不連続変革、戦略パターン

飯野 一(ウィンドミル・エデュケイションズ㈱)/東出 浩教(早稲田大学大学院)
上司の動機付け言語の使用が部下の仕事の成果、仕事満足に及ぼす効果

 日本国内の情報通信系企業114社を対象に、上司による動機付け言語と、部下の仕事の成果および仕事満足との関係を探索した。 Sullivan(1988)は動機付け言語(方向性を与える言語、関係構築の言語、意味作りの言語の3つの言語を含んでいる)を上司が使用することは、部下の仕事の成果と仕事満足にプラスの影響があると指摘している。この理論が、日本において適用できるのか、さらにベンチャー企業と大企業という企業規模の違いによって、動機付け言語の効果に違いはあるのかという点を探索した。データ分析の結果、大企業では、上司が方向性を与える言語を使用することによって、部下の仕事の成果(仕事の質)は低下し、ベンチャー企業では、上司が意味作りの言語を使用することによって、部下の仕事の成果(仕事への情熱)は低下するという関係性が見出せた。また、上司が関係構築の言語を使用すると、大企業では、部下の仕事の成果(仕事の質)が高まるが、ベンチャー企業では、仕事の成果(仕事への情熱)が高まり、仕事の成果(プライベート重視)は低下するという関係性も見出せた。

キーワード:動機付け言語、仕事の成果、仕事満足、ベンチャー企業、大企業

事例研究論文

桐畑 哲也 (奈良先端科学技術大学院大学)
ナノテクノロジー事業化とデスバレー現象

 ナノテクノロジー(以下、ナノテクと略す)による 21世紀の日本の新たな産業創出が期待されている。その背景には、ナノテクは基盤技術であるが故に広範な分野で次世代の産業や社会に大きな影響を与える、基礎研究分野において我が国が国際的に見て比較優位と認識されている点等を挙げる事が出来る。
 本事例研究は、まず優れた先端科学技術を十分に事業化へと繋げる事が出来ない状態であるデスバレー現象に関する先行研究を概観する。ナノテクにおけるデスバレー現象を詳細に検討するため、先端科学技術の事業化までの段階を、基礎研究段階、製品開発段階、事業化段階の三つに分類し、ナノテクの製品開発段階におけるデスバレー現象とその要因について質問票調査をもとに検討する。その上で、ナノテクの製品開発段階においては (1)資金面の問題、(2)外部との連携の問題、 (3)ビジョンの描出・需要のコンセプト化の問題が、主要なデスバレー要因として認識されている事を明らかにする。最後に、ナノテク事業化の方向性と求められる公的支援策について論じる。

キーワード:ナノテクノロジー、デスバレー、事業化、製品開発、資金問題、外部連携、ビジョン描出、需要表現

高橋 義仁(早稲田大学大学院アジア太平洋研究科)/下村 博史(早稲田大学大学院アジア太平洋研究科)
製薬企業とバイオベンチャーの戦略的提携

 従来の典型的な医薬品研究開発プロセスは、候補物質を数多く作り篩いにかける方法で行われていたが、ゲノム創薬1では異なる。ゲノム創薬の時代にはより高い独創性を発揮することが求められ、製薬企業がこれまで蓄積してきた「明確な研究開発目標に対して組織的に取り組む」という成功モデルが生かせなくなりつつある。ゲノム創薬においては、開発の初期段階をバイオベンチャーに預け、製薬企業の研究開発のモジュール化を推進することが、画期的新薬を確実に創成し製薬企業の経営の安定化を図るための戦略となる。また、戦略的提携はバイオベンチャーにとっても重要であり、単独で医薬品のバリューチェーンをカバーすることのできなかったベンチャー企業にとって、優れたパートナーと提携を結ぶことはベンチャー企業の明暗を分けることになる。
 創薬におけるもう一つの流れは、バリューチェーンそれぞれの構成要素のモジュール分解が急速に進んでいることである。強いパートナー構築力を持つ企業は「モジュール管理会社(モジュール・コンダクター)」としてバリューチェーンのすべてをコントロールすることが可能となり、仮想製薬企業として活躍することを意味する。
 本論文では、そーせいのケースについて、仮想製薬企業の役割をベンチャー企業が担うことが十分に現実味を帯びてきていることについても、議論を加える。同時に、モジュールを吸収合併により獲得してゆく「モジュール統合会社(モジュール・インテグレーター)」が生まれれば、そこから新たな「フル規格の製薬企業」が生まれる可能性があることについても言及する。

キーワード:バイオベンチャー、ゲノム創薬、戦略的提携、モジュール化、モジュール・コンダクター、モジュール・インテグレーター

石川 誠 (三菱証券)
新しい企業価値評価方法の有効性に関する研究

 金融ビッグ・バン以降、日本経済の回復と持続的成長をめざした様々な改革が提唱され実施された。中でも株式市場等のインフラ整備は急ピッチで進められ、マーケットの新設や基準緩和が相次いだ。これによりIPO(Initial Public Offering:新規株式公開)の門戸は従前より大幅に開放され、例えば赤字会社でもルール上は公開可能となった。
 しかし新興企業に対しリスク・マネーが継続的に供給されるためにはベンチマークとなるべき新しい企業評価手法を確立し、普及させることが不可欠である。本論文はこのような主旨のもと新しい IPO価格算定方法について提案している。
 そこでまず IPO価格算定の現状と問題点を明確にするとともに、その解決に向けた方策としてリアル・オプション法を導入することを提示した。そして実際の新規公開事例よりリアル・オプション法によるIPO価格の試算と結果の検証を行い、また関連するその他問題についても考察した。
 これらから本論文の成果は以下のようになった。
1. 不確実性の高い企業の IPO価格算定では、ブラック=ショールズ式を利用したリアル・オプション法を応用することに一定の有効性がある。
2. リアル・オプション導入の条件として、①専門家、MOTが複数存在する、②使い勝手のいい市販ソフトの普及、③オプションやパラメーター取得を容易にする開示体制の整備、が必要である。

キーワード:リアル・オプション、 IPO、ブラック=ショールズ、MOT、企業評価

奥山 雅之 (東京都産業労働局)
ビジネスプランコンテスト(BPC)を通じた起業家育成についての一考察

 BPC(ビジネスプランコンテスト)が各地で実施され、その数は増加しているが、今後は、BPCが起業家の輩出という命題において、実質的な役割をいかに担えるかが課題であろう。本稿では、このような問題意識に基づき、学生向けのBPC「学生起業家選手権」を事例として取り上げ、起業支援におけるBPCの役割と今後の方向性を考察する。
 本事例研究の結果、BPCは、BPCのもつ本来的な機能に加え、「掘り起こし」や「深彫り」の機能を充実させることが重要であるとの示唆を得た。今後、各BPCが、他の様々な起業支援への取り組みとの連携を視野に入れながら、それぞれの特性に応じた機能を充実させることが求められる。

キーワード:ベンチャー企業、起業家、起業支援、学生起業家、ビジネスプランコンテスト(BPC)

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