学会誌

日本ベンチャー学会誌No.36 論文一覧

研究論文 /Article

森口 文博/山田 仁一郎/黒木 淳

バイオベンチャーのピボット

ベンチャーやスタートアップ企業にとって、柔軟に経営戦略の転換(pivot)を行うことが、その生き残りや成功に影響を与える要因として近年言及されるようになった。一方で、ベンチャーやスタートアップ企業がピボットを選択する要因について実証研究の蓄積は少ない。本稿では、国内バイオベンチャー148 社から取得したアンケートデータを対象に、バイオベンチャーのピボットを決定づける要因について、経営環境および心理的要因の視点から定量分析を行った。解析の結果、経営課題への対応の視点では、「品質管理対応ができている企業ほど、ピボットしにくい」「外部環境の把握ができている企業ほど、ピボットしやすい」という結果が得られた。また、心理的な側面では、「CEO に創業メンバーが含まれていると、ピボットしにくい」という結果が得られた。この結果は、ベンチャーやスタートアップ企業がピボットを選択するにあたり、検討材料として重要な示唆となろう。

Key words:バイオベンチャー、ピボット、心理的オ ーナーシップ

松井 克文/牧野 恵美/馬田 隆明/菅原 岳人/吉田 塁/栗田 佳代子/長谷川 克也

起業家によるゲスト講義を中心とした起業家教育プログラムの効果

本研究の目的は、起業家によるゲスト講義を中心とした起業家教育プログラムの効果検証である。ゲスト講義は、ロールモデルや代理経験の効果を通して起業における自己効力感を向上させ、起業意思が醸成されて起業につながると期待されてきた。
 本研究では、同一環境にある非受講のコントロールグループを設定した準実験を実施し、差分の差分法を用いてゲスト講義の効果を検証した。対象のプログラムはゲスト講義を4 回含む7 週間の大学の大規模授業である。検証の結果、受講の効果による起業意思と起業における自己効力感の向上は確認されなかった。また、受講前の起業意思が高い学生ほど、受講後に起業意思が低下する結果が示された。
 以上のことから、ゲスト講義中心の教育プログラムは期待した効果が得られていないと考えられる。一方、受講前に起業意思が高い学生は、起業への向き不向きを再考する機会を得て、自らの適性を見つめ直したと考えられる。

Key words:起業家教育、起業意思、起業における自 己効力感、ゲスト講義、差分の差分法

平田 博紀

日本のスタートアップのPre-Money Valuationの決定

スタートアップのエクイティファイナンスにおける起業家と投資家の最大の関心事は、資金調達(出資)後の株式持分にある。それぞれの株式持分は、起業家と投資家間の交渉により決定するPre-Money Valuation に影響を受ける。
 本稿では、多くの国内の起業家にとって大きなハードルとなっている最初のエクイティファイナンスを舞台に、どのような起業家、投資家がPre-Money Valuation の決定において交渉力を有するのかを検証している。
 分析の結果、投資家に対して強い交渉力を有する起業家には斯業経験があることが明らかとなった。また、起業家に対して交渉力を有する投資家として、国内の民間の独立系VC や事業会社、エンジェル投資家といった存在が確認された。

Key words:Pre-Money Valuation、起業家、投資家、交渉力、株式持分

日本ベンチャー学会誌No.35 論文一覧

研究論文 /Article

内田 彬浩/伴 正隆

クラウドファンディングプラットフォームによる資金調達者へのアプローチ

日本の購入型クラウドファンディングプラットフォーム「CAMPFIRE」のデータを用いた実証分析を行い、主に以下の4 点を明らかにした。第一に、資金調達プロジェクトのプラットフォームへの掲載基準
を緩和した場合、プロジェクトの成功には文章・動画等による説明を充実させることが重要になる。第二に、「All or Nothing」方式のプロジェクトでは募集日数の増加が成功率を下げるが、「All in」方式ではその限りではなく、長期の募集が許容され得る。第三に、平均出資額が低い「All or Nothing」方式のプロジェクトでは、プロジェクトの成功に関わる要素が一部異なる。第四に、平均出資額が低いプロジェクトでは、「Allin」方式を選択しても成功率が下がるとは言えない。これらの結果は、クラウドファンディングのプラットフォーム運営企業の経営判断に資する知見と考えられる。加えて、日本において東京以外の地域でのクラウドファンディング定着の兆候が確認された。

Key words:クラウドファンディング、購入型、実証 分析、掲載基準、プロジェクト設計

高井 計吾

バイオベンチャーにおける提携ネットワークと研究開発活動

 本研究では、日本における創薬、試薬系バイオベンチャーの研究開発活動と、バイオベンチャーが構築する提携ネットワークおよびネットワーク上の位置との関係を明らかにする。分析対象として1995 年から2015 年までに創業・設立されたバイオベンチャー186社を取り上げ、各組織が構築する共同特許ネットワークを分析した。結果として、ネットワーク上で他組織の関係を媒介する位置、すなわち橋渡し的ネットワークが特許出願数と正の相関を示していることが明らかになった。また、組織の出自および属性が、ネットワークの効果にどのような影響を与えるのかを追加的に分析した。結果として、バイオベンチャーが上場することはネットワークの研究開発活動への効果を押し上げるが、大学発であることはネットワークの効果を押し下げることがわかった。

Key words:バイオベンチャー、提携ネットワーク、 大学発ベンチャー、上場

↑ページTopへ