学会誌

日本ベンチャー学会誌No.34 論文一覧

事例研究論文 /Case Study

藤森 茂/名取 隆

バイオベンチャーの経営チームによるコア技術創出


 ベンチャーの起業は、一人で行うよりも複数の異なる専門性や性質を持ったメンバーがチームを形成し、行う方が望ましいとされる。本稿は、高度な科学的専門性が必要とされ、バイオベンチャーの成長や業績にも影響を及ぼすとされるコア技術の創出について、経営チームの貢献を明らかにすることを目的としている。経営チームと組織の成果については、経営上層部視座に基づく研究が多く行われているが、役割分担や相互作用などの具体的プロセスが不明であるとの課題も指摘されている。事例として、最先端の創薬研究を行う株式会社ボナックが、起業時に創出した核酸医薬プラットフォーム「ボナック核酸」を取りあげ、その生成過程をインタビュー調査により詳細に分析した。その結果、優れた科学者の貢献に加え、ビジネス面を役割とする経営者が、科学者との相互作用を通じて、コア技術の創出において重要な役割を果たしていたことが明らかとなった。

日本ベンチャー学会誌No.33 論文一覧

研究論文 /Article

石黒 順子/大江 建

日本およびASEANの大学生にみる起業家的資質と起業意識


筆者らは、2014年から2017年に「ASEAN中小企業・起業家教育産学連携促進事業」に取り組んだ。その活動の一環として、日本およびASEAN各国の大学生を対象に、起業意識や起業家的な性格特性を把握するための調査を実施した。調査には、CairdのGET2を用い、起業家に必要とされる資質のうち、達成欲求、自律性、創造性、リスクテイキング、統制の所在という5つの資質を測定した。さらに、起業への意欲や自信の有無をたずねた。
その結果、次のような傾向がみられた。①インドネシア、ブルネイでは、意欲も自信もある回答者が過半を超えた。一方で、日本はマレーシア、フィリ ピン、カンボジア、タイ、ラオスと並び、意欲も自信もない層が多い。②起業家的性格特性のスコアは、フィリピン、ラオス、などで高い。若年者失業率の高い国で、起業への意欲・自信・起業家的資質のスコアが高い傾向がみられる。③いずれの国でも起業家的性格特性での男女差はみられない。一方で、起業への意欲や自信では、全体としては男性が女性を上回る傾向があるが、ベトナム、ブルネイ、フィリピンなど女性が男性を上回る国もみられる。④日本、 フィリピン、ミャンマー、マレーシア、ブルネイで、自営業の親が子の起業意識に大きな影響を与えている。⑤ブルネイ、インドネシア、ベトナム、ミャンマーで「起業への意欲も自信もある」人の割合が、「起業への意欲も自信もない」人の割合を大きく上回る。
この研究の結果は、日本とASEANの人材特性の違いを示すだけでなく、ASEAN域内の人材の多様性を示している。その成果は、日本がASEAN地域内でのベンチャー企業・中小企業育成に貢献する際のみならず、日本企業がASEAN展開する際の人材の活用にも活かされるであろう。

Key words:ASEAN、起業意識、起業家的性格特性、大学生、起業家教育

事例研究論文 /Case Study

江島 由裕/藤野 義和

発達障害とアントレプレナーシップ


本稿は、発達障害特有の資質がアントレプレーシップというコンテキストで大きく開花する可能性を学術的な視点から捉え展望している。
世界では著名な起業家がADHDをかかえていることが逸話として知られているが、学術的な視点からの実態とメカニズムの解明は途に就いたばかりといえよう。本研究はこの開拓途上の領域に一石を投じる。
実証分析に際しては、まず日本の発達障害をもつ起業家の現象と特徴を俯瞰した上で、次にそこから2つのケースを抽出しその実態を描写し分析を加えている。起業や事業を軌道に乗せるプロセスで、発 達障害という資質がどのように影響を与えているのかについて、探索型リサーチによる分析結果から5つの学術的含意とプロポジション(命題)を示す。

Key words:アントレプレナーシップ、発達障害、ADHD、AS

中山 雅之

スチューデント・アントレプレナーの起業プロセス


本研究は学生が将来のキャリアの選択肢に起業を入れ、活動をしながら起業意欲が向上し、卒業後も自らの事業を主たる活動として推進しようとする気持ちがどのように高まってゆくのかという主観的な起業のミクロプロセスを分析し、明らかにすることを目的とする。
学生からのeメール、参与観察で得られた会話、インタビュー内容をデータとし修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて分析をした。その結果、起業プロセスは4つ、これに影響を与える要因2つがカテゴリーとして抽出された。起業プロセスは模索と整理、ミッションの発見、事業実施の試行錯誤、具体的な成果と拡張で、影響を与える要因は仲間からの揚力、規範と時間からの圧力であった。
見出された学生の起業は、起業という意思決定を事前に為すというよりは、本研究で示されたプロセスを斬進的に進めることで起業意欲が醸成され起業という意思決定に至るというものであることが示された。

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