日本ベンチャー学会誌No.20 論文一覧
研究論文 /Article
- 芦澤 美智子
「買収後の企業再生を成功に導くケイパビリティ」 -
企業買収は企業が成長を遂げるにあたっての有効な手段の1つである。昨今の経済状況を反映して買収対象企業の多くは再生が必要なものであり、買収後の企業再生の成功要件を明らかにすることは実務的にも学術的にも意義あることと言える。しかしながら、企業再生の戦略研究は約30年の歴史があるものの未だに明らかになっていないことが多い。
本論文では買収後の企業再生戦略の理解を深めるために、日本電産が手掛けた企業再生の4事例を用いて分析を行う。その分析にあたっては、企業再生戦略の先行研究を踏まえ、そこにケイパビリティ・パースペクティブの観点を導入する。これにより買収後に行われる企業再生をいかに成功に導くかの理解を深め、また、今後の企業再生の戦略研究発展の土台となる分析視点を提示することを目的とする。Key words:企業再生、ケイパビリティ・パースペクティブ、ダイナミック・ケイパビリティ、オペレーショナル・ケイパビリティ
事例研究論文 /Case Study
- 高木 栄
「サービスビジネスのスケールアップ手法の研究」 -
ベンチャー企業のスケールアップと、サービス特性の先行研究により、サービスビジネスのスケールアップのクリティカルファクターの仮説を立て、2005年以降に株式公開をした、Teboul(2006)のサービス分類のタイプD(対人サービス)の企業のうち、会社設立10年以内に株式公開を果たした26社の事例分析によって、確認した。
組織ルーチンの手法(サービスの繰り返し性の獲得:パッケージング)が、スケールアップに特異的なクリティカルファクターであることが明らかになった。また、B to C企業では、正統性の手法(サービスの事前評価を促す:ブランディング)が有力な手法であることが明らかになった。
さらに、3社について詳細事例分析を行い、この2つの手法が、どう具体的にスケールアップに寄与しているかを明らかにした。Key words:サービス、イノベーション、スケールアップ
日本ベンチャー学会誌No.19 論文一覧
研究論文 /Article
- 名取 隆
「大企業との共同技術開発において中小企業に求められる連携能力」 -
本研究は、中小企業が大企業と共同技術開発を始めるために中小企業が備えるべき特定の能力を、連携能力(cooperative capabilities)と名付け、その構成要素を明らかにすることを目的としている。実証分析の対象として、大企業と中小企業との共同技術開発を仲介する大阪のマッチング事例を取り上げた。研究方法としては、まずマッチングに参加する中小企業を、大企業との共同技術開発に関する技術ミーティング(TM)を実施できた中小企業グループ(TM企業)と、そうでないグループ(非TM企業)の2 つに分ける。そして、両グループにアンケートとインタビュー調査を行い、結果を比較する方法を採った。合わせて、連携先の大企業にもインタビュー調査を行った。その結果、連携能力のコアとなる要素は、大企業にはない技術と、目先の課題だけでなく潜在的課題も含めて、付加価値の高い解決策を提案できる能力であることが分かった。
Key words:共同技術開発、中小企業、大企業、連携能力、技術マッチング
事例研究論文 /Case Study
- 潘 燕萍
「初期流動的段階におけるベンチャーの動態的企業家能力」 -
本稿は、日本の大学発ベンチャーの状況分析を行うことによって、多くの大学発ベンチャーが移転資源のビジネス価値を創出できていない初期流動的段階にあると指摘する。資源ベース理論とダイナミック・ケイパビリティの理論を概説したうえで、初期流動的段階を乗り越えるための動態的企業家能力の重要性について述べる。この主張を検証するために、市場プル型のA社と技術プッシュ型のB社を選出して分析を行う。かくして、資源動員力、革新力、統合力がビジネス価値の創出において機能する論理を解明し、動態的企業家能力の理論構築を試みる。
Key words:初期流動的段階、動態的企業家能力、資源動員力、革新力、統合力