遊休不動産を利用した「利害の結び直し」として読み解かれるソーシャル・イノベーション
近年、まちづくり研究において、企業家概念を基軸とした「ソーシャル・イノベーション」研究による理論構築が注目されている。それら既存研究は、地域の既得権益者(ステイクホルダー)を動員するために、「利害の結び直し」の分析を行う。そこには、認知的正統性に基づく価値共有と社会的正統性に基づいたイノベーションの普及を重要視し過ぎたことで抽象レベルでの統合のみの議論となっており、再現可能性の低い記述モデルとなっている。そこで、本論文では、まちづくりとは社会企業家による資源の新結合であるという分析視座に立ち、新しい価値によるアリーナの構築と、「利害の結び直し」の起点に物質的存在を介した事業の作り込みというモデルを提唱する。 このことを経験的に実証する事例として、株式会社黒壁と株式会社北九州家守舎による地域再生事例を検討する。そこでは、「遊休不動産」という物質的存在により、ステイクホルダーの資源動員を可能にし、地域再生事業を実現させていた。