2008年 第3回清成忠男賞 受賞者・受賞論文
<受賞者氏名>江島 由裕 氏(大阪経済大学教授)
<受賞論文タイトル>「新事業開発中小企業の生存要因分析」
<掲載誌名・号・年>『日本ベンチャー学会誌 Japan Ventures Review』No.11、2008年
論文
<論文要旨>
本稿では新事業開発を通じて発展を目指す中小企業の生存決定要因を戦略・マネジメントの視点から分析している。分析には、郵送アンケート調査と電話調査で収集した1233社の企業の質的データを用いた。その結果、7つの生存決定要因が特定された。そこでは、業界状況を熟知してコスト競争に巻き込まれず競争優位に戦える顧客ルートや小さな市場の選択が重要な要因として抽出された。企業家的な経営姿勢より堅実なマネジメント要素が際立った。一方、若い企業の場合は2要因が特定された。競争者より早く新商品をマーケットに導入する企業家的経営姿勢が生存の重要な鍵を握っていた。また、危険水域を脱した成長企業が失速・消滅せず存続するには7つの要因が特定された。そこでは、特に脅威の少ない事業環境下で多様な資源・知識を組織的に創造し蓄積する戦略の重要性が示された。全体、若年、成長企業に共通して、顧客との相互作用の設計、構築、発展の重要性が示唆された。
キーワード:中小企業、生存要因、戦略、マネジメント、新事業開発
<Abstract>
This paper examines the survival factors of new business developing SMEs in Japan. Based upon the data collected from 1233 responses to a nation-wide mail and telephone surveys of these firms in Japan, it is found that there were seven determinant survival factors. Among these, well-understanding of business community, no cost-based strategy and resource or knowledge based strategy were common key factors. There were two determinant survival factors for the young SMEs: Proactive behavior such as quick market penetration and introduction of new products and services, and the innovativeness. For the growing SMEs, there were seven determinant survival factors. Among these, the resource or knowledge based strategy and low risk market positioning were found as key factors. The common survival factor for young, growing and all sample firms is related to interaction with their customers.
Key words: SMEs, Survival Factors, Strategy, Management, New Business Development
<受賞の言葉>
このような名誉な賞を頂けることになりとても光栄に思っています。まだまだ未熟な私がこうした権威ある賞を頂くことができましたのは、本当に多くの諸先生方から頂いたご指導とご助言の賜物であります。
特に、私のアカデミック面での礎を築く上でいつも親身にかつ緊張感をもってご指導して頂いた上智大学の山田幸三先生には大変お世話になり心から感謝申し上げたいと思います。また、この春に本当に残念で仕方ないのですが他界されました米国ドレクセル大学の黒川晋先生には米国での最新の研究動向ならびに研究者の姿勢について多くを教えて頂きました。
今回の受賞はこのお二人の先生方から学んだ研究に対する厳しい姿勢なくしてはあり得なかったと思っています。本当にありがとうございました。同時に、この論文の査読プロセスにおいてレフェリーの諸先生から頂いたご批判ならびにご助言は、本当に建設的かつ深い洞察に基づくもので論文の改善に大いに役立ちました。この場を借りてお礼を申し上げたいと思います。
なお、先程、審査委員長からもご指摘がありました通り、この論文には課題があることも間違いありません。今後はそうした点に正面から取り組み、この論文をフェーズ1と捉えて中小企業の生存要因に関する研究をさらに発展させ近い将来、再度、諸先生方の前でご批判・ご助言を頂けるように地道に研究を重ねて参りたいと思っております。本日は本当にありがとうございました。
<清成忠男氏挨拶>
わが国の企業家活動の拠点は、歴史的に見て関西である。今回の受賞者は大阪経済大学の江島由裕教授であり、大会の開催校は経営学の名門である神戸大学である。私自身も神戸育ちであり、しかも今日はこのキャンパスの正門前で若い頃から御指導いただいている元学長の新野幸次郎先生に偶然お会いすることができた。何かの因縁を感ずる次第である。
さて、今回の大不況をきっかけに新しい時代が始まっている。新しい産業の芽は、ベンチャーを担い手として各地で出始めている。状況の変化に対応して、企業家活動は進化しつつある。科学技術の進歩、経営資源の高度化、ITの普及などが企業家活動のあり方に強いインパクトを与えている。しかも、「グローバル・グリーン・ニューディール」に象徴される産業のパラダイムシフトは、ベンチャーの方向性に少なからぬ影響を及ぼしている。
ただ、若い研究者の思考パターンや方法論は、既存のフレームワークのなかで完成度を高めようという方向に動いているように思われる。ベンチャー研究にも「創造的破壊」が重要な課題になっているのではあるまいか。